コンテンツにスキップ
ATOM Mate for toio™の舞台裏を公開!

ATOM Mate for toio™の舞台裏を公開!

こんにちは。菊地です。今日発売されたATOM Mate for toio™

本商品はスイッチサイエンスでも取り扱っている「toio」の開発者 田中章愛さんとのお話をきっかけに、M5Stack社と株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの日本限定コラボ商品として開発プロジェクトが実現しました。

toio™ コア キューブ」と連携するために作られたM5ATOM用拡張の開発は、どのようにして進められたのでしょうか?田中さんとの対談形式でその舞台裏をお送りします。

開発のきっかけ

菊地:田中さん、お忙しいところすいません。いつもありがとうございます。

田中:いえいえ、こちらこそ。

菊地:最初は春先でしたっけ?田中さんと我々で、今年のMakerFaire Tokyo向けのコラボ企画をやりたいですね、なんかアイデアないですかねぇ、なんてお話をしていましたよね。

田中:はい、当時菊地さんから今年はMakerFaireはリアル開催の可能性が高いので、物販よりもむしろコラボ展示をやりたい、とお話をいただいたんです。そのときすでにtoioのユーザとM5Stackのユーザは結構重なっているんじゃないかと思いまして、4月にJimmyさん(M5Stack CEO)と打ち合わせをセットしたいとお願いをしました。

toioとM5Stack ユーザ作品(出典:田中章愛さん)

JimmyさんとはM5Stackユーザグループで知り合って、何度かお話をする機会をもらっていました。またJimmyさん自身も以前からtoioで遊んでいただき、気に入ってくれたというのも大きかったです。

また何より、私自身もM5Stack製品の熱心なユーザで作品を作ってMaker Faireで作品を展示していましたので、個人的にもこの組み合わせは熱い!と思っていました(笑)。


左:田中章愛さん 右:Jimmy Lai(M5Stack CEO)

菊地:実際の組み合わせ方として、AI(UnitV2との組合せ)はどうだろう、とかSLAM(自己位置推定とマッピング)はどうかとか、沢山アイデアを出していただいて。その中でToF(Time of Flight)センサとStickCを組み合わせたアイデアがありましたよね。で、これならUIFlowでかんたんにtoioを制御できるんじゃないかと。

田中:はい。toioは以前よりコアキューブ技術仕様を公開し、JavaScriptのサンプルを公開し、toio SDK for Unityを配信するなど、開発者向けに様々な取り組みをしていたのですが、より開発者層をひろげるためにはUIFlow(M5Stack社のビジュアルプログラミング環境)のブロックでtoioを制御できるといいなあと考えていました。ハードウェア同士のコラボも大事なのですが、開発エコシステムとしてのコラボをぜひやりたいと考えました。

菊地:Jimmyさんの反応はどうでした?

田中:UIFlowに関してはほぼ即決で(笑)

菊地:そうでしたね。それは必須だね、(同席していたソフトウェア開発者に)すぐにできるよね、って感じでした(笑)。

田中:その流れで、2センチ角のATOMだったらtoioと大きさ的に合いそうだし、ToFセンサを載せた拡張ハードウェアがいい感じで作れるんじゃない?となり、試作に向けたチャットグループが立ち上がった。

M5Stackのスピード感

菊地:M5Stackの皆さんと一緒に開発をされていかがでしたか?

田中:まず、スピードの速さに驚かされました。チャットでいつでも会話が進み、その日のうちに反映されて試作品を見せてくれて、Jimmyさん自らが動かしている様子を伝えてくれました。その内容はその後Twitterでも何度も公開され、ユーザのみなさんにも(状況が)伝わったのかなと思いますが、まさにあのまんま、手作り感の良さとライブ感のある進め方でした(笑)

もちろん中には時間のかかるプロセスもあり、国が違うので休暇のタイミングも違いますが、ちょっと期間が長めのハッカソンで開発しているような感じでしたね。

菊地:5月にはUIFlowの最初のtoioブロックができて、ATOM Mate for toioの最初の試作サンプルが完成するまで2ヶ月かからなかった。さすが深セン速度。


開発中の試作サンプル(3回目)

田中:そうですね、3Dプリンタも活用してとりあえず形にして試してみるサイクルが早く、まさしくMaker的だなと思いました。UIFlowに至っては、現行のATOMでもそのまま使えるからと即公開されるなど、いち早くユーザに届ける姿勢も素晴らしいと感じました。

また、UIFlowに徐々に改良も加わり、サンプルプログラムも増えました。ATOM Mate for toioがあればより手軽ですが、とりあえずお手元のATOMにToFセンサユニットを組み合わせてサンプルプログラムを試してから、ATOM Mate for toioでより高機能な発展版を自作するのもいいと思います。

量産サンプル完成

菊地:田中さんにも1ヶ月使い込んでいただいてハードウェア/ソフトウェア両面で改善すべきポイントも明確になり、M5側からも強度がほしいからここはこうしようとか、量産試作のフェーズに移ったのが7月上旬。

田中:そうですね、UIFlowは手軽ですが、使いかたに多少コツも必要なので、色々とわかりやすくしていただきました。またメカ的な工夫などもどんどん盛り込まれていきました。


水色がtoio制御ブロック(画面は開発中のものです)

ちなみにATOM Mate for toioは前から見ると埴輪(はにわ)の顔みたいに見えますが(笑)、これはM5Stackのエンジニアのみなさんの工夫で、前にToFセンサ(距離センサ)だけでなくセンサを取り付けるための穴やケーブルさばき用の溝などが設けられています。同じ取付穴は横にもついていて、例えば複数のToFセンサを使ってマイクロマウス的なものや、メカ的な拡張性も増すんじゃないかということで使い勝手がより良くなったな、と思いました。

菊地:当時はATOM toio(仮称)というコードネームで進めていたんですが、8月頭にはMaker Faire Tokyo向けの展示パネルを深センサイドで完成させなければいけなくて、そこでようやく商品名の協議に入ったという(苦笑)。

田中:そうですね(笑)、そのグルーブ感も楽しかったですよ。ちなみに会話はだいたい英語だったのですが、たまに日本語で書いてもJimmyさんはいつも反応してくれるので、だんだん言語も混ざってきたり、スタンプを送りあったり。デモ動画も設営の前日に手作りしましたが、まさにハッカソン的でしたね(笑)。

田中さんによるデモ解説(YouTube)

菊地:田中さんも「より良いものを出したい!」と直前までデモの内容を何度も練りなおしてくださって。デモ動画は展示でも大好評でした。本当にありがとうございました。 

そして販売まで

田中:ところで、9月頭のデモ展示後に発売まで2ヶ月かかったんですよね。

菊地:はい、通常のUnitやHatの場合には基本形状が決まっているので基板ができてしまえば早いのですが、今回は特注品のため、塗装時の色味の調整だったり、複雑な形状の部分を微調整したりと、量産においては様々な苦労があったようです。どうしてもtoio本体やATOM本体と重ねたときに違和感がないように仕上げたかったんですよね

田中:初めて作る製品はどんなに簡単に見えそうでも必ず予期せぬことも起こりますし、それが量産の醍醐味でもありますね。そのあたりはM5Stackのエンジニアのみなさんのご尽力の賜物ですが、いい感じで仕上がって良かったです。毎年これだけたくさんの製品を開発し販売しているM5Stackさんの仕事ぶりが垣間見えてとても勉強になりました。

菊地:パッケージもATOMとtoioコアキューブを同梱する前提でかっこいいデザインスケッチが上がってきて、「ごめん申し訳ないのだけど、toioもATOMもすでに持っているM5Stackユーザがたくさんいるので、同梱じゃない形にしたい」と伝えたりしましたね。

パッケージデザイン(販売中のものとは一部異なります)

田中:はい、それでもATOMやtoioっぽい紙を入れてデザイン的に使いかたがイメージできるようにしたらと提案があり、サービス精神やあそび心も忘れないところにも感銘を受けました。課題があっても常にクリエイティブに解決して前に進んでいくので、会話していて気が合うのでとても楽しかったです。

今後の展開

菊地:今回のコラボをきっかけにして、toio開発者として今後やっていきたいことはなんですか?

田中:toioのような小型ロボットとM5Stackでできることって、Maker的にもまだまだ未開の地だと思っていまして(笑)、一ユーザとしてももっと楽しく使える事例を増やしたいです。

特にtoioは絶対位置が取れるということで自律移動ロボットや自動運転、そしてAIを活用するなど、これまでこのサイズや手軽さでできるとは夢にも思わなかったことができるようになるのは個人的にもエキサイティングです。僕自身も昔高専ロボコンに参加したり、大学時代は自律移動ロボットの研究室にいたので、ロボット工学的な発展性はとても感じています。高専や大学の授業や研究にもどんどん活用してもらえたらと思いますし、事例を紹介したり、学生さんと一緒に何か作ったりもしたいですね。

また、UIFlowにサンプルがありますが、ESPNowという手軽な通信機能を使えばM5StickCやCore2などATOM以外の製品との通信もできるので、遠隔操作やデータの可視化、複数ロボットの協調なども手軽になると思います。

菊地:改めてATOM Mate for toio™の発売にあたり、M5Stackユーザの皆さんにメッセージをお願いします。

田中:ATOM Mate for toioは、ハードウェアを作るのは得意じゃないし組み立てる手間は避けたいけど、とにかく手軽にロボットを動かしてみたい!というエンジニアやMakerの方々にはうってつけだと思いますので、各地のMaker Faireやハッカソンではぜひたくさん動いている姿が見られると嬉しいなと思います。toioとM5Stackでできることを一緒に開拓しましょう!

菊地:私自身もいろいろな場所でtoioとM5Stackを活用した作品が見られると思うとすごく楽しみです!本日はありがとうございました。

 
ATOM Mate for toio™

https://www.switch-science.com/products/8500

ATOM Mate for toio™は、toio™ コア キューブと連携するために作られた
M5ATOM用拡張ベースです。
Time-of-Flight(ToF)方式による距離検出センサVL53L0Xと90 mAhのバッテリ、
充電用ICチップ TP5400を搭載。ATOM MatrixまたはATOM Liteと組み合わせて
使用できます。本体下部はtoioコア キューブと組み合わせて使うことを想定し、
側面にM5Stackの各種ユニットを固定できるようにレゴ互換の取り付け穴を搭載
しています。


“toio™”は、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です。

前の記事 Luxonis製RGB-D/AIカメラ"OAK-D S2"で画像処理初心者が画像加工をしてみる