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SKU 4092

ハードウェアハッカー~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険

送料区分: 650

商品コード: GIHYO-001

発売日: 2018-10-30

在庫数: 2

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エドワード・スノーデン,伊藤穰一(MITメディアラボ所長)ほかテクノロジー業界の著名人の推薦続々!

  • たった12ドルで携帯電話を作るには?
  • 著作権に違反せずにプロテクトを外すには?
  • 遺伝子をハックするには?

これまでの常識を破壊し,自らの手で新しいものを生み出していくための考え方や仕組みを,世界的なハードウェアハッキングの第一人者が実体験とともに解説。世界のイノベーションの中心地の1つである深圳におけるビジネスの仕組みや知財の考え方,ニセモノ製品の裏側,子供でも作れるシール式電子回路Chibitronicsなど刺激的な話題を凝縮した驚異の書。

こんな方におすすめ

  • 自分の手で成功する製品を作るためにはどういうことが必要なのかを知りたい方
  • これからイノベーターになるためにまず何が必要なのかを知りたい方
  • 社会がイノベーションを育むためには何をしていけばいいのかを知りたい方
  • 中国経済がいま躍進し,日本企業の多くが停滞している理由を知りたい方
  • ハードウェアスタートアップを成功に導きたい方

著者の一言

問題解決をしているすべての人が,この本から多くのことを学べる(高須正和)

この『ハードウェアハッカー』はすごい本だ。

  • 中国経済がいま躍進し,日本企業の多くが停滞している理由
  • これからイノベーターになるためにまず何が必要なのか?
  • 社会がイノベーションを育むためには何をしていけばいいのか?
  • 自分の手で成功する製品を作るためにはどういうことが必要なのか?

などを,豊富な実体験と知識をもとに明確に書き記している。
著者のアンドリュー“バニー”フアンは,世界的に有名なハードウェアハッキングの第一人者だ。とはいえ,「世界のハッカー界」は狭くて小さい世界なので,本書を手に取る人のほとんどとは縁がないだろう。なので,まえがきとして本書のバックグラウンドについて少し説明する。

社会制度は,研究開発の自由に影響し,イノベーションを促進したり阻害したりする

革新的な技術,たとえば自動車のような技術は,社会を丸ごとアップデートして進化し,それまでの良い・悪いのモノサシも変えてしまう。ロケットがミサイルにも宇宙探査にも使えるように,どの技術も犯罪利用される可能性がある。だが,もはや自動車事故や自動車犯罪を理由に自動車を社会から追い出すわけにはいかないように,新しい技術ほど可能性をきちんと見据える必要がある。
この手の話ではたいてい,技術にくわしいエンジニア,つまりハッカーたちが可能性に注目し,法律家たちが既存の社会のモノサシで新しい技術やサービスを押し込め,規制しようとする。コンピュータ社会をリードしてきたアメリカは,新しい技術が出てくるたびに,法的にどう扱うかについても試行錯誤を積み重ねてきた。2000年ごろから「デジタルミレニアム著作権法」(DMCA)という法律をめぐってハッカーと法律家の間で論争があった。デジタルミレニアム著作権法は,暗号化されたファイルの解読や,買ってきたハードウェアの中を開けること,つまり「調べること」を禁止する法律だ。コピーガードを破って映画や音楽を勝手に流通させる海賊行為には,大多数のエンジニアたちも反対している。だが,暗号について調べることそのものが禁止されると,普段の開発行為が結果として犯罪を招くことになるリスクが上がるし,社会全体の技術発展が阻害される。
MITでエレクトロニクスを学び,Ph.Dを取得した著者バニーは,法律に違反しない形で技術的にさまざまなハックを成功させることで,エンジニアの立場から社会に警鐘を鳴らし,最初の著書『Hacking a Xbox』や彼のブログなどで,より深く考える機会を提供してきた。エドワード・スノーデンやコリイ・ドクトロウといった,エンジニアではないが技術的な立場から社会を考える人たちが本書を推薦しているが,それはそういう理由だ。

自分の手で新しいものを作るハードウェアベンチャーの難しさと可能性を体現

バニーは2005年からChumbyというハードウェアベンチャーに参画し,chumby Classicとchumby One(本書では,Chumbyと表記するとChumby社,chumbyと表記していると製品chumbyを指している)という2つの製品を世に送り出した。chumbyはネットに常時接続され,いつも電源が入っていてTwitterやニュースなどを見れる端末だ。iPhoneより先に発表された,今でいうスマートフォンやその他IoTの先駆けみたいな製品といえる。オープンソースでだれもがアプリを作れ,ストアで売れるエコシステムも備えていた。しかもchumbyは,アメリカ人の少人数ハードウェアスタートアップが,深圳のサプライチェーンを使って製造した製品だった。
先例がない中で,中国でのモノづくりを成功させたChumby。しかし,iPhoneと違ってchumbyは大きな流れにならなかった。chumbyとiPhoneを分けたものは何で,後から思い返せばどこに問題があったのか。マーケティングや企業戦略を含めた,そのプロセスや分析も本書では詳細に語られている。
また,バニーは自分自身でその経験を生かしてNovenaというオープンソースのラップトッププロジェクトでもクラウドファンディングを成功させ,さらに,Chibitronicsというスタートアップで会社そのものを成功させて今も活動している。

Facebookの創業ストーリー映画『ソーシャル・ネットワーク』やアメリカのTVシリーズ『シリコンバレー』ほか,さまざまなスタートアップについて語られているドキュメンタリーやフィクションはあるが,そこに実際のプログラミングをしているシーン,具体的に何をどうやって開発していたかは,ほとんど出てこない。それらに比べて,この本は手を動かす記述に満ちている。
こうしたシリコンバレーものの映画やテレビドラマでは,スタートアップが資金調達にまつわる人間関係トラブルで混乱していく様がよく語られる。それは事実よく見られるケースだ。バニーは彼の経験から,資金調達に頼らずサステイナブルに成長させるスタートアップを作り上げている。
技術だけでなくプロダクト企画,会社の成長,顧客とのコミュニティの作り方,そうしたすべてが本書に詰まっている。さまざまな失敗と成功,その知見はあらゆる企業に応用可能なものだ。

MITの「深圳の男」が語る,イノベーションに向いた社会制度

バニーは,MITでは「深圳の男」とされ,Little bitsほかいくつものMIT製品の量産をサポートしている。サンフランシスコ出身で深圳にラボを置く世界最初のハードウェア・アクセラレータHAXでも,メンターを務めている。スタートアップのハードウェア製造については世界でも第一人者といえる。彼は2014年に伊藤穣一ほかMITの研究者たちに中国の深圳を案内している。
今でこそ世界のイノベーション中心地の1つとされる深圳だが,その実態を正確に把握してる人は極めて少ない。彼が自ら体験した深圳の様子はその後の発展を見事に予見していて,その意味で本書は「深圳に学ぶ・深圳を学ぶ」ための最高の教科書になるだろう。深圳でおこなわれているモノづくりが,どのような経済活動やプレイヤー,モチベーションや社会構造の元におこなわれているかを,本書は詳細にレポートしてくれる。さらに,そのエコシステムを自分なりに活用する方法も。

技術の発展を促進しようとすると,補助金を使った大規模な開発プロジェクトが想起される。スーパーコンピュータの開発やアポロ計画などだ。だが,それ以上に重要なのが,「今の社会を変えることを阻害せず,むしろ促進するための社会の仕組み」だ。世界のイノベーションを牽引していると言われるアメリカ/シリコンバレーも中国/深圳も,「新しいことをする」自由が大きく確保されている場所であり,それによって深圳の自由闊達な発展と多様なプレイヤーが生まれ,彼らがもたらす膨大な試行錯誤の積み重ねが発展のためにいかに重要かを本書は伝えてくれる。その意味では,イノベーションを生む当人だけでなく,サポートする立場の人にとっても貴重な本だろう。

これからの人間の仕事は「その人しかやりたがらないものを作る」こと,そのためにはハッカー精神が必要だ

DIY雑誌の代名詞,アメリカの『Make:Magazine』初代編集長のマーク・フラウエンフェルダーは,DIYをする意味,ハッカー精神が世界を変えていくプロセスについてうまい説明をしている。

いまの世の中には,コントロールできないものが多過ぎる。Makeのカルチャーは「コントロールできるものを自分たちの手に取り戻そう」という考え方だ。政治や経済は自分たちでコントロールできない。だが,ものを作ることは自分でコントロールできる。この「自分は何かをコントロールできる」という想いを抱くことを,メイカーはとても大事にしている。
例えば,椅子を自作したとする。もちろん既製品より出来は劣る。しかし,自分で作った椅子には愛着が湧き,さらに「既製品の椅子が,どういう接着剤やネジを使って作られているか?」といった新しい視点が生まれる。それまでの人生では,作りの良い椅子を見ても特に何も感じなかったかもしれないが,実際に手を動かして関わってみることで,かつて無縁だったものに親しみが生まれ,まるで仲間が作ったもののように思えるようになる。こうした経験を積むことで,作り手に対する感謝や尊敬の念を持てるようになるだろう。
メイカーになる喜びの1つは,その視点を手に入れられる所にあると,私は考えている。それにより,自分の行動や人生の質が変わってくる。自らの手で何かを作ろうとした際,最初は失敗することも多いが,成功や失敗を通じて自分と世界とのつながりが増えていく。自分自身の姿勢が変わっていくことで,家族とのやりとり,コミュニティとのやりとり,そして社会全体が変わっていく。
『メイカーズのエコシステム』拙著,インプレスR&D刊)

できることをやる。できることを増やしていく。
やったことをシェアして,同じようなことをやりたがる人とつながっていく。

ハッカー精神を具体的な行動に落とし込むとそうなるだろう。
インターネットとAIの時代になり,機械でも人間でもさほど変わらない成果が出るような大量の情報処理や分析は,仕事としての重要度が低下した。これからの人間の仕事は「その人しかやりたがらないものを作る」ことになっていくだろう。スタートアップブームはその現象の1つだ。「合議し,合意し,みんなの考えのもと,選択と集中をして,やらなければならないことをしていく」という20世紀のやり方は古いものになり,結果として20世紀に価値を出していた人たちが中心の,日本経済は低迷している。
解きたい問題を見つけ,自分たちの手で解くことは,AI時代に重要性を増してきた人間の仕事だ。ハッカーという言葉は1970年代からあったが,経済活動の中心になってきたのは2010年以降になる。
自分自身がプレイヤーとして手や口を動かす,同じ興味の人とつながり,連携する――その総体が社会の活力を生んでいくだろう。新しい教育と言われているSTEM教育(海外ではメイカー教育と言い換えられる。バニーが本書で言っているとおり,メイカーとハッカーは同じものを別の側面から取りあげた言葉なので,つまりはハッカー教育ともいえる)も,この文脈から出てきている。世界は新しいハッカーを育てようとしている。
ハッカーの手法で世の中の多くの問題,たとえばファイナンス/バイオインフォマティクス/スタートアップ/プロトタイプ/製造といった問題が解けることを,本書は雄弁に伝えてくれている。

本書にもあるとおり,結果よりも過程のほうが重要だ。問題を発見し,工夫して解き明かす,その旅のプロセスの中にハッカーの喜びがある。「日本がこの先どうなる」といった主語の大きい話に,僕は正直少しうんざりしている。大事なのは自分でできることと,同じようなことをやりたい人とどうつながるかで,そうした行動の積み重ね1つひとつが,100の分析や評論よりも自分を変え,さらには世の中を変えていくだろう。

本書の翻訳,僕とバニーのかかわり

僕は2014年から深圳で,ニコニコ技術部・深圳コミュニティを仲間たちと始め,今も深圳で毎月ミートアップを開くなどの活動をしているほか,自分のハードウェアを開発する,DIYのハードウェアを販売するなどの仕事をしている。僕の所属する株式会社スイッチサイエンスは,日本にDIYイベントの「メイカーフェア」が始まったときからずっと支援している。
深圳DIYイベント「メイカーフェア 深圳」への日本からの参加者は,2014年には20名ほどだったが,2017年には150名を超えた。バニーともさまざまなイベントでよく会う。深圳でのビール会で彼は,chumbyのユーザーが僕らの中に多いのに驚いて,全員にビールをふるまってくれた。
バニーが日本語版のまえがきで「翻訳は高須と彼のチーム」と書いているとおり,今回の翻訳はチームによるものだ。本書の翻訳についての僕の貢献度は大きめに見ても30~40%といったところで,正確には「言い出して,できるところまでやった」というだけだ。監訳の山形浩生さんほか,ガジェットを分解してブログに構造をアップする活動を続けている鈴木涼太さん,半導体とMakeの関係について研究を続けている金沢大学の秋田純一教授,シンガポールで弁理士をしていて知財に造詣の深い田中陽介さん,深圳在住で電気街のことをいつも教えてくれる村谷英昭さん,Chibitronicsの日本での展開を考えている,今の僕の勤務先でもあるスイッチサイエンスの金本茂社長とスイッチエデュケーションの小室真紀社長,そして出版につなげてくれた技術評論社の傳智之さん,ほか翻訳時に協力してくれた多くの友人たち(ほとんどが,深圳でバニーとビールを飲んだ人たちでもある)に最大限の感謝を。

『オープンソースプロジェクトに火がついて,多くの人を巻き込んで自立するためには,最初の製品(MVP, Minimum Viable Product)を出すだけでなく,そのプロジェクトを本当に必要としているユーザーに恵まれなければならない。プロジェクトが人々の琴線に触れ,巨大なコミュニティがプロジェクトを後押ししてくれることもある。』(本書第3部第9章「Fernvaleの結末」)と本書にある。オープンソースプロジェクトについての名文書「伽藍とバザール」にも「オープンソースのプロジェクトは動くプロトタイプが絶対に必要」という同様の記述がある。僕はいろいろなことを軽々しく始めてあっさりやめるけど,本書を巡る旅は本書を必要としている多くの人々に支えられて,出版という目的地にたどりついた。
僕たちはこの本の内容に触れることをとても楽しみ,今も楽しみ続けているけど,この本が多くの人に読まれることで,日本がよりよい場所になることを期待している。ぜひこの先ページをめくって本書を楽しんでもらい,読み終わったらぜひ他人にも勧めてもらいたい。

Enjoy making!
2018年8月 深圳/シンガポール/東京
高須正和


  • アンドリュー“バニー”ファン 著,高須正和 訳,山形浩生 監訳
  • A5判/440ページ
  • 定価(本体2,380円+税)
  • ISBN 978-4-297-10106-0
  • 目次

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